BCG(Bacillus Calmette–Guérin vaccine)は結核を防ぐワクチンです。コロナウイルスパンデミックが始まった初期の段階から、一部の研究者の間でBCGがコロナウイルスの死亡率(Case Fatality Rate)を低く下げていると示唆する発表がありました。
コロナウイルスパンデミックの中心地は毎月のように変わっており、また自説を支持するようなデータだけ選ぶのは難しくありません。たとえばベラルーシはBCGの文脈でよく引き合いに出されます。ベラルーシのBCG接種率は高く、またコロナウイルスによる死亡率は1%を下回っているためです。でもベラルーシの死亡率がこれだけ低い理由はほかにもあるのかも知れません。自分は生物学者ではありませんが、それでもインターネット上で公開されているデータを使って多国間の相関の有無を調べることは出来ます。
WHO(World Health Organization)はBCGの推定接種率データをウェブサイトで公表しています。これは167カ国の1980年から2018年までのBCGワクチン接種率を%でまとめたもので、単純にこれと日々のコロナウイルス死亡数データを比べれば全体像が見られるのではないかと思いました。
上の分布図は、データが入手可能な149カ国のBCG接種率とコロナウイルス死亡率の相関を表したものです。2枚の分布図は同じものですが、煩雑なので一枚は国名を表示しないでいます。接種率を数値化する方法として、今回は単純に1980年から2018年までの接種率を合計しました。毎年正の100%以下の数字の連続だからです。もしこれよりいい方法があれば教えていただければと思います。Y軸は2020年8月26日時点での各国のコロナウイルス死亡率を示しています。結果として、BCG接種率とコロナウイルスの死亡率との間には何の相関も見られませんでした。相関係数は-0.09で、ほぼ完全に無関係であることを数値として表しています。注釈になりますが、分析に際してイエメンは死亡率が29%と異常に高いため、分析対象から外してあります。
今回の調査で使ったBCG接種率のデータは39年間しかカバーしておらず、またワクチンの種類なども考慮に入れてないということは自分で認識しています。しかしながら、この調査に対して、BCGにコロナウイルス抑制効果があると信じるグループの人たちは今度は1979年以前のデータと、ワクチンの種類の違いに関するまとまったデータを提供しないと反論出来ないというところまで議論を進められたと僕は思います。
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